これまでの研究で、歯の本数が多い人ほど認知症のリスクが低い傾向があると報告されています。反対に、歯を多く失っている方は、認知機能が低下しやすいというデータもあります。
もちろん「歯が少ない=必ず認知症になる」というわけではありません。しかし、歯を失う背景には、歯周病やむし歯の放置、定期的なケア不足などがあり、それらが全身の健康にも影響している可能性があるのです。
噛むことが脳への刺激になる
食べるという行為は、ただ栄養を取り込むだけではありません。
・食べ物を見る(視覚)
・においを感じる(嗅覚)
・味わう(味覚)
・食感を感じる(触覚)
・よく噛む(筋肉や感覚神経の刺激)
このように、食事にはたくさんの感覚が使われています。特に「噛む」という動作は、脳へ直接刺激を送る大切な働きがあります。
しっかり噛むことで、脳の血流が増え、記憶をつかさどる海馬(かいば)などが活性化するといわれています。歯が少なくなり噛む力が弱くなると、この刺激が減ってしまう可能性があるのです。
歯周病と認知症の関連
お口の中の病気で特に注意したいのが歯周病です。歯周病は歯ぐきの炎症ですが、進行すると細菌や炎症物質が血流に乗って全身へ広がります。
近年では、歯周病菌の一種が認知症との関連で研究されており、アルツハイマー型認知症の原因とされる物質との関係も注目されています。たとえば、代表的な認知症である アルツハイマー病 では、脳内に特定のたんぱく質が蓄積することが知られていますが、慢性的な炎症が影響している可能性も指摘されています。
つまり、歯周病を予防することは、お口だけでなく全身の健康、さらには脳の健康を守ることにもつながるのです。
入れ歯でもしっかり噛むことが大切
歯を失ってしまった場合でも、あきらめる必要はありません。入れ歯やインプラントなどで噛む機能を回復させることが重要です。
「入れ歯が合わないからあまり使っていない」という方もいらっしゃいますが、噛まない生活が続くと、さらに噛む力が弱くなってしまいます。しっかり合った入れ歯で、できるだけバランスよく食事をとることが、脳へのよい刺激になります。
お口のケアは今日からできる認知症予防
認知症予防というと、特別なトレーニングやサプリメントを思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、毎日の歯みがきや定期検診は、すぐに始められる大切な予防法です。
・1日2〜3回の丁寧な歯みがき
・歯間ブラシやフロスの使用
・定期的な歯科でのクリーニング
・よく噛んで食べる習慣
これらの積み重ねが、将来の健康につながります。
「歯が痛くないから大丈夫」と思っていても、歯周病は静かに進行する病気です。自覚症状がないうちからケアを始めることがとても大切です。
まとめ
歯がたくさん残っていること、しっかり噛めること、健康なお口を保つことは、単なる“お口の問題”ではありません。食べることにはたくさんの感覚が使われ、それが脳への刺激となり、認知機能の維持に役立っている可能性があります。
人生100年時代。いつまでも自分の歯でおいしく食べ、家族や友人との食事を楽しめることは、心と体の健康そのものです。
お口の健康は、将来の自分への大切な贈りもの。今日からできるケアを、ぜひ一緒に始めていきましょう。
監修歯科医師 土井幹夫
香里園レジデンス歯科・矯正歯科